1度ならず2度までも君に恋をする
 ダイニングテーブルに向かい合い、それぞれ一塊の麺を掬ってめんつゆに浸す。箸で軽く解してから口に運ぶと、出汁の風味と共に、つるりと滑らかな麺が滑り込んできた。

 この喉越しを味わうたびに、ああ、夏が来たんだという実感が身体の中に広がっていく。

 目の前では、真紘くんが少しだけ目を見開いて「…美味しい」と小さく独り言のように呟いた。その素直な反応がなんだか愛おしくて、私は思わず笑みを零してしまう。


「でしょ~?」

「俺いつも茹で上がるまで火つけたままで茹でてた」

「普通そうだよね。私も知るまではそうしてた」


 そんな他愛のない会話を楽しみながら、共にそうめんを囲む。ふと真紘くんが箸を止め「そういえば、明日って何か予定ある?」と、さりげなく問いかけてきた。

 麺を頬張ったまま、私はぶんぶんと横に首を振る。


「明日、どこか出かけよう」

「え?」

「…行かない?」


 私の驚いた声が意外だったのか、彼は少しだけ視線を逸らし、語尾が自信なさげに弱まっていた。強引に誘うのではなく、こちらの顔色を伺うようなその問いかけに、彼なりの不器用な緊張が見えて、胸の奥がキュンと跳ねた。


(何、その可愛い問いかけ。行くに決まってる)


 今すぐ即答したいけれど、あまりの破壊力に心臓が跳ね上がり、呼吸を整えるだけで精一杯だった。

 ようやく落ち着きを取り戻して彼を見れば、真紘くんは小首を軽く傾げて私の返答を待っている。その無防備な仕草に、また胸が苦しくなる。


「行きたい」

「ん、後でベッドの上で一緒に予定立てよう」


 当たり前のように、今夜も一緒に眠り、明日の朝を共に迎えることを前提とした言葉。それがこんなにも嬉しいなんて、知らなかった。泊まることも隣で眠ることも、少しずつこうして当たり前になっていくのかもしれない。

 こみ上げてくる、にやけそうなほど幸せな笑みを隠したくて、私は急いでそうめんを口に運びごまかした。
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