1度ならず2度までも君に恋をする
 その日の仕事を終えた19時頃、前のデスクの方を見ると真紘くんはまだ残っていた。眼鏡をかけた状態でモニターを眺めていて、その表情は涼し気で何を考えているのかわからない。

 定時を過ぎたし、話しかけてみてもいいかと恐る恐る近寄った。


「あの、佐野さん」

「うん」


 そう返事をするとモニターから視線をこちらに移す。
 朝のあの時以来に話すから緊張する。


「…少し話せますか?」

「…わかった。どこで話す?」


 そう言いながら席を立ったのを見て安堵した。
 今度は拒否されなかったって。

 真紘くんと隣を歩いてオフィスを出ると、そのまま自然にエレベーターに乗り込み屋上に向かった。こんな時間に屋上にいる人はいないからゆっくりと話せる…、そう思って選んだのだけど、失敗だったかもしれない。

 春先の夜をなめていた。何も羽織らずに屋上に来たのは大きな失敗だった。思わず寒さで身体が震える。

 そんな私に「何してんの」と言いながらも、スーツのジャケットを脱いで軽く羽織らせてくれた。言葉はどこか呆れているようなのに、行動はいつも優しいところ変わっていない。


「…真紘くんは寒くない?」

「君ほど寒がりじゃないから羽織ってて」


 そういうと屋上を囲う鉄製の柵に腕を乗せ、夜景を眺めている。黒髪が風で靡いていて、横顔は綺麗なものを見つめていても無表情だった。
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