1度ならず2度までも君に恋をする
 手渡されたのは、真紘くんがかつて手がけた案件のほとんどが集められており、凄まじい資料の数だった。

 世に出た完成品だけでなく、没案までが揃っている。こんなもの、いくらネットが普及した令和でも、個人のリサーチで辿り着けるはずがない。


「佐久間さん、どうしてこんなの取り寄せられたんですか。調べて出るものじゃないですよね」

「佐野が元々いた会社には俺の同期がいる。だから、頼んでFAXしてもらった」

「…まだ、残ってたんですね」

「ちゃんとデータにも残ってたみたいだし、資料室にも残っていたみたいで、さっき頼んだらすぐ来たよ。早くて驚いたけど」

「なるほど」


 佐久間さんの意外な伝手に驚きつつも、私は納得した。

 まだ少しだけ機械の熱を帯びた、届いたばかりの紙。
 真紘くんが直筆で書き記したコピーの数々。

 迷いのない太い線、何度も塗りつぶされた試行錯誤の跡、そして最後に決めたキャッチコピーは二重で丸にして囲んでいた。

 私は、彼の思考の軌跡を辿るように、指先でその文字をそっとなぞった。

 紙越しに伝わってくる、当時の彼の熱。

 めくるたびに、圧倒された。そこには真紘くんがかつて担当した案件の一つひとつに、どれほどの熱量を注いできたか。

 迷いのない直筆の文字。だけど、時には言葉を削ぎ落とし、磨き上げ、究極の一行を絞り出すための凄まじい葛藤が滲んでいる。

 妥協した言葉で誤魔化すことを自分に許さず、誰よりも誠実に、広告と向き合ってきた証がここにあった。
< 137 / 149 >

この作品をシェア

pagetop