1度ならず2度までも君に恋をする
「…やっぱり、好きです。彼のことが」


 それは、溢れ出した言葉だった。

 一つひとつの案件に誠実に向き合ってきて、決して妥協を許さないところ。そのすべてが尊敬できて、愛おしかった。

 じわり、と目頭が熱くなる。これほどまでに言葉を慈しみ、向き合ってきた人が、今はその言葉に縛られ、一人で苦しんでいる。

 どうにかして彼を支えたいのに、今の私には何もできない。
 自分の非力さが情けなくて、視界が滲むのを必死に堪えた。

 佐久間さんは、そんな私を少し困ったような表情で見つめていたけれど、やがて優しく私の頭を撫でた。


「あいつ、甘えるの下手だもんな」

「何か、出来る事って思うのに、全然何も出来なくて…」

「俺は、見守るって言うのも、森山にしか出来ないことだと思うけどな」


 佐久間さんはしばらく撫でると、私の頭からひょいと手を離すと「さ、話過ぎた。仕事戻ろうっと」と、わざとらしく伸びをしながら背を向けた

 私の湿っぽくなった空気を振り払うような、彼なりの軽快な足取りでドアの方へ向かう。

 けれど、ドアノブに手をかけたところで、彼は最後にもう一度だけこちらを振り返った。


「あいつも、いつか話してくれるよ。もう少し待ってやって」


 私が頷くのを見届けると、佐久間さんは今度こそ資料室を出て行った。

 バタン、とドアが閉まる。

 再び静寂に包まれた資料室で、私は手元に残されたFAXの束を、もう一度ぎゅっと抱きしめた。

 待とう。彼が自分の言葉で、打ち明けてくれるまで。
 たとえ彼が今は何も話せなくても。

 私はゆっくりと深呼吸をして、滲んでいた涙を手の甲で拭った。

 資料を丁寧にファイルに収めると、オフィスへと戻った。
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