1度ならず2度までも君に恋をする
「お疲れ様。佐野は?」

「さっきオフィスを出る時にまだいました」

「そっか。もう少しで来るかな」


 そう言い柔らかく笑いながら、共にその場で真紘くんを待つ。この機にほんの少し、気になっていたことを聞くことにした。


「佐久間さん、佐野さんに言ってなかったんですね。私がこの会社にいること」


 佐久間さんはこの会社で唯一、私と真紘くんの関係を知る人だ。突然振られたことも当然知っている。

 佐久間さんは「ああ、そうだね」と声を漏らしてほんの少し笑いを零す。


「まあ、佐野は仕事上においても凄い人間なんだよ。この業界にいるのが当たり前、って感じるくらいの人間で、それなのにこの業界を降りようとしてたから、引き止めたかったし。でも、事前に森山が居るの聞いてたら来なかっただろうなって思ったから言わなかった」


 佐久間さんの話し方はずっと真紘くんと連絡を取り合い親しかった様な言い方。私が何をしてるか知らない間、その間佐久間さんはずっと知ってた。それに真紘くんが元々業界を降りたがっていたとか、何も知らない。前は何でも知っていたのに、今じゃ何もわからない、知らないという事実が突き刺さる。

 それに"森山が居るの聞いてたら来なかっただろう"という言葉に納得はするのにズキっと胸が傷んだ。事実を述べただけだ、佐久間さんの言っていることは正しい。

 そう思いながら「そう、ですよね…」と返事をすると、佐久間さんはクスッと笑みをこぼす。


「違う。森山が嫌いだから来ないとか、そんな意味で言ったんじゃないよ」

「え?」

「多分、あいつの事だから居ると知ってたら、自分が行けばむしろ森山が不快な思いすると思って、面接を受けなかったと思うんだ」


 確かに真紘くんが誰かを嫌いだとか、そんな風に悪口を言う瞬間も見た事はあまりないけど、それでも腑に落ちなかった。

 今日はアルコールの力も借りて、どこかで真紘くんの本音とあの時のことを聞けたらいいのに、と少し期待はしている。
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