1度ならず2度までも君に恋をする
𓂃꙳⋆⭐︎



 私と彼の雨の日の思い出を少しだけ。

 八年前の四月一日、大学一年生の私と一つ上の彼は初めて出会った。

 予報なんて見ていなくて傘を忘れ、雨が止むまでキャンパス内に居ようと思い、玄関で立って空を眺めていた。いつ止むかなんてわからないくせに、ただ濡れたくないからなんてそんな理由で。

 大学の在校生たちは外でのサークル勧誘は出来ず、まだキャンパス内は勧誘とそれに捕まる生徒達で溢れている。

 私はそれから外れこのまま待っていたらいつか止むかもと私は1人そんな期待をして、ただただ泣いている空を見つめていると「雨、しばらく止まないよ」と声を掛けられた。

 その声で後ろを振り返ると、冷たい雰囲気を感じる、黒髪の白い肌をした男子。身長は百八十前後ほどで、切れ長の黒の瞳でこちらを捉えていた。そんな見た目と無表情さが、氷の様な冷たさを感じさせている。

 スーツでは無く私服を着用しているあたり先輩なのか、名前すらも分からなかったが、ひとまず私は静かに頷いて答えた。


「…予報、見てなくて」

「そう。傘ないんだ?」

「はい」

「入ってく?」

「え?」


 今会ったばかりの相手に傘に入ってく?なんて普通に誘うものなのだろうか。

 躊躇う私の横で傘を広げてこちらを見る。無表情なせいで何を考えているかなんて読み取れない。そもそも今であったばかりの人間の考えを何を考えているのか理解しようとするのが不可能に近いとは思う。

 そんな私を気にするでもなく、ただただ漆黒の瞳で捉えていた。


「入って行かないの?」

「あ…、はい」


 今出会ったばかりだったが、大学入学したてで緊張と上手くやれるのかの不安もあり、先輩の厚意を無碍にするわけにもいかないと、少し大きめの傘の中に入り隣を歩いた。

 それからゆっくりと歩幅を合わせ、しばらく無言で隣を歩いていると、先輩がふとこちらに向いた。今まで会話なんて無かったのに突然の事で驚き、私も先輩の方を見る。


「あ、の、何か?」

「金木犀の匂いする。時期外れなのに」

「あ、私の香水かも」


 私は金木犀が好きで、期間限定の芳香剤やボディーソープや柔軟剤を見付けると母に買ってほしいとおねだりする。高校の時、アルバイトをしていて、そのアルバイト代を使いよくSHIROの金木犀の香水を購入して身に着けていた。

 そんなに強く着けていたつもりはないけれど、ここまで近いと香り、それが気になってしまったらしい。
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