1度ならず2度までも君に恋をする
「そうなんだ。雨の匂いの中に金木犀の匂いが混じってるのが気になって」

「嫌いですか?」

「いや、別に」


 そう話しながら自然と足は駅の方に向かっている。

 家がどの辺だとか、何かを話すわけでもなく先輩の長い足は私の歩幅に合わせて、感覚を狭くして歩いてくれている。そして私が濡れない様に傘をこちらに傾けてくれているから、濡れる先輩の右肩。

 少し不愛想な態度の中でそんな優しさを感じ思わず口元が緩みそうになったが、軽く咳払いし表情筋を引き締めなおした。


「あ…、すみません。入れてもらっておいて。私持ちますか?」

「いや、いいよ」


 そう言いながら変わらず私の方に変わらず傘を傾けて雨が当たらない様にしてくれている。そんな優しさに初対面でありながら思わずときめいてしまった。知らない人と無言、それなのに全然嫌な感じはしなくて、むしろ居心地が良かった。

 そう考えている間に大学から徒歩15分程で駅についてしまう。それがほんの少し寂しい。

 駅で先輩と向かい合うと畳んだ傘を手に握らされ、驚く。その傘を握る事も出来ないまま先輩の顔を見た。


「傘、あげる。駅から近いから、家」

「え、でも」

「いいから。持ってって」


 そう言って強引に私に傘を押し付けるとそのまま背を向けて歩き出した。

 さすがにそのまま見送れないと、慌てて先輩の腕を掴むと少し驚いた表情をしてこちらに振り返る。


「あ、の、お名前は?」

「…君は?」

「あ、そっか。森山(もりやま) 仁菜(にな)です」


 私の名前を聞いた後「森山さん」と小さく私の名前を繰り返した。

 それから少しこちらを見て少し微笑み「佐野(さの) 真紘(まひろ)」と言うと、そのまま今度こそ離れて行った。そんな微笑みに思わず顔が熱くなり悶えそうになる。

 そんな雨の日の不思議な出会いに、不思議な恋の落ち方をした。
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