1度ならず2度までも君に恋をする
「…おはよう」


 そっと後ろから声を掛けると、彼は少し振り返り灰皿に煙草を押し付け火を消しながら「おはよう」と返事をした。それから中に入ってくると、私を見つめ「コーヒー飲む?」と問い掛けてきた。

 その声は驚く程冷静で、昨日の熱さなんて無かったかのよう振る舞いだった。本当に自分にとって都合のいい夢を見ていたのではないかと思う。


「…飲む」

「そう。座ってて」


 そう言うと彼はキッチンの方に向かった。


(どうして、こんなことになったんだろう)


 五年前の別れと、現在のこの状況に理解が追い付かない。

 彼は何事も無かったかのようにコーヒーを淹れていて、その表情もいつも通りだ。何を考えているのか全く分からない。

 真紘くんが帰ってきて私が座るテーブルの前にコーヒーを置いた。それを見て「ありがとう」とお礼を言うと、真紘くんは距離を離して隣に座る。

 その絶妙な遠さが、彼は昨夜の出来事を後悔していると告げているようで、胸の奥がひりひりと痛んだ。

 そう声を掛けるか悩んでいて、部屋には沈黙が漂っている。次の瞬間、お互いに「あのさ」と口を開くと2人共話すのを一度止めた。
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