1度ならず2度までも君に恋をする
 ひとまず気を落ち着かせ自分の席に着く。
 それから会議は定刻通り始まる。


「よし。全員揃いましたね。お忙しい中ありがとうございます。これから新商品『ビター・ノアール』プロモーションの内部キックオフ会議を始めます」


 海くんの爽やかな声が会議室に響いた。配られたばかりの資料には、まだ印刷されたばかりのインクの匂いが残っている。その資料にはプロジェクトの全体像と、今日集められた担当者たちの名前が連なっていた。


「今回、このプロジェクトの舵取りをしていただくクリエイティブ・ディレクターの佐野さんから、まずは一言いただけますか?」


 海くんに促され、真紘くんがゆっくりと立ち上がった。

 一斉に、全員の視線が彼に集中する。ヘッドハンティングで迎えられた彼にとって、これが社内での初仕事だ。引き抜かれてきた男が一体どんな手腕を見せるのかと、周囲の好奇と期待の目が彼に注がれる。

 彼は相変わらず、緊張の欠片も見せなかった。愛想を振りまくでもない、無表情で相変わらず感情は読み取れない。


「この会社で初めて、コマーシャル制作に携わらせていただきます。完了までの二か月間、よろしくお願いします」


 彼は簡潔に挨拶を済ませると深くも浅くもない角度のお辞儀をした。そんな彼は私と目を合わせることもなく、視界の端にさえ入れていないような。

 以前公私混同はしたくないと言っていたように徹底されており、理解はしていたはずなのに、それでも意識しているのは自分だけなのだと苦しくなった。
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