1度ならず2度までも君に恋をする
 オフィスからは徐々に人が減り、あたりにはしんと静寂が広がり始めていた。

 真紘くんは何も言わず、ただ私の画面に映る議事録をじっと見つめている。タイピングの音さえ消えた空間で、彼の存在だけを強く感じる。


「佐久間さん、流石だったよね」

「…はい」


 突然発せられた言葉に、それ以外返す言葉が見つからなかった。

 佐久間さんのように完璧に振る舞えないことが悲しいわけじゃない。四年もこの業界に身を置きながら、未だに理想の端にも届かない自分が、ただただ情けなくて、悔しい。

 深く考えれば見えたはずのことが、私には見えなかった。

  会議のたびに無力さを晒し、納得のいく答えを一度も出せないまま、時間だけが溶けていくのを感じる。


「カフェオレありがとうございます」

「うん」


 缶のタブを回し開け、甘さを一気に喉に流し込む。そうでもしないと、苦い感情を飲み下せそうになかったから。


「毎度会議って気が張るよね」

「…はい」

「俺も、いつも緊張する。あの場は」

「え?」


 意外な言葉に驚いて顔を向けると、真紘くんは真顔のまま、ブラックの缶コーヒーを喉に流し込んでいた。


「どんだけ事前準備したつもりで挑んでも、全然足りなくて。だから、今日も佐久間さん見て流石だなって思った」

「…佐野さんにもそういう感覚あるんですね」

「俺を何だと思ってんの。完璧じゃないんだからあるに決まってるでしょ」

「そういうふうに見せないから」


 そういうと視線をモニターから外し、こちらに視線をやる。
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