1度ならず2度までも君に恋をする
 重く沈んでいた足取りが、今は驚くほど軽い。

 もう一度、前を向いて頑張ろう。そう思わせてくれたのは、間違いなく佐久間さんの存在だった。

 佐久間さんがくれた「コピーライターが似合っている」という言葉が、お守りのように胸の奥で温かく残っている。

 エレベーターを降り、クリエイティブ局のフロアに戻る。

 そのまま自分のデスクに着き、ノートパソコンを開いた。

 昨日までの真っ白な画面に、今は一刻も早くアイデアを打ち込みたいとキーボードに手を置いた。


(…甘みと、苦み、切り替えと、ご褒美。すべてを共存させる言葉…)


 切り替えもご褒美も、矛盾しているかもしれないけれど、この商品にはどっちも備わっている。それを言葉にできれば、私の中でようやく『ビター・ノアール』の納得のできるキャッチコピーが完成する気がした。

 キーボードを叩き始めようとしたその時、ふと、視界の端に彼のデスクが映る。

 相変わらず無表情でモニターに向かっている真紘くん。私が昨夜また向き合って動けたのは彼のおかげでもある。彼の期待を裏切らないためにも、結果を出さなければならない。

 私は深く息を吸い込み、迷わず指先を動かし始めた。
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