1度ならず2度までも君に恋をする
進まない距離感
あの夜を境に、私達の間には、まだどこかよそよそしい空気が居座り続けていた。

 会社で顔を合わせれば挨拶くらいは交わす。あの日の会話が、まだ少し照れ臭く尾を引いていて、それ以上の言葉が続かない。

 真紘くんの視線がいつもより早く私から逸らされる。彼もまた、私と同じ気持ちなのだと理解した。

 それと、プロジェクトの方は順調だった。その後、行われたブレスト会議で、私が一案に絞り込んだコピーは無事に通過した。迷いを断ち切り、自分自身の言葉として差し出した答えが認められた事実は、私にとって大きな自信になった。

 物事は、着実に良い方向へと進みつつある。あとは、海くんがクライアントへのプレゼンを突破すれば、いよいよプロモーションの本格的な制作へと動き出す。

 ブレスト会議が自分の中で無事に成功したこともあり、私はすっかり浮足立っていた。

 デスクで資料を開き、通ったばかりの自分のコピーを眺めては、いい出来だと自画自賛してしまう。張り詰めていた緊張から解放されようやく穏やかな気持ちでまたいられるようになった。


「森山さん、お疲れ様」


 背後からかけられた穏やかな声に振り向くと、そこには佐久間さんが立っていた。


「あ、佐久間さん。お疲れ様です!」

「お疲れ。会議、無事に通ってよかったね」

「ありがとうございます。本当に、佐久間さんのおかげです」


 心からの感謝を込めて頭を下げると、彼は「いえいえ」と少し笑って首を横に振った。
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