1度ならず2度までも君に恋をする
 それから私は、学内で真紘くんを見かけるたびに、積極的に声を掛けるようになった。


「佐野せんぱーい!」


 声を上げると、彼は決まって足を止め、わずかに首を傾げて振り返る。そんな彼特有の癖がたまらなく愛おしくて、私は彼を呼ぶたびに頬が緩んだ。

 急いで駆け寄り、「これからサークルですか?」と横に並ぶ。


「そう、森山さんも?」

「そうなんです。一緒に行ってもいいですか?」

「どうぞ」


 普段は人といるのを好みそうにないのに、私のお願いに拒まない。少しだけ気を許されていると、そんな気になった。

 そのまま並んで歩き出すと、真紘くんの歩くスピードが、ふっと緩やかに落ちるのが分かった。


(あ…、今、歩幅合わせてくれたんだ)


 本人は無自覚なのだろうけれど、そんなやんわりとした優しさに触れるたび、彼に対しての気持ちは加速した。

 ただ隣にいる。それだけのことが、今の私には何よりも贅沢な幸せだった。


「…ふふ」


 思わず笑みがこぼれると、真紘くんは一瞬だけきょとんとして、それからいつもの無表情に戻り、不思議そうに首を傾げた。


「何で笑ってんの?」

「佐野先輩って、優しいですよね」

「何、急に。媚び売っても佐久間さんみたいにお菓子持ち歩いてないよ」

「そんなつもりで言ってないですから」


 佐久間さんは確かに、会うたびに「これ食べる?」とポケットからチョコレートや飴玉を差し出してくれるけれど、そんなこと彼に望んでなんかいない。

 それは私なりの、精一杯のアピールだった。言葉にできない代わりに、こうして気付かれるか気付かれないか程度の発言をする。隠した好意に気付いてほしいような、気付いてほしくないような、そんなくすぐったい気持ちだった。

 この時の私は、まだ好きという言葉を直接、彼に投げつける勇気なんて、これっぽっちも持っていなかった。
< 68 / 149 >

この作品をシェア

pagetop