1度ならず2度までも君に恋をする
 サークルの部室に辿り着くと、中には誰もいなかった。


「あれ?誰もいないですね。珍しい」

「この時間講義入ってる人も多いし、佐久間さんは論文に追われてるって言ってた」


 二人で部室に入り、ドアを閉めた。

 その瞬間、トントン、と窓を叩く軽い音が響く。 窓の方を見ると、曇天からこぼれ落ちた雨粒がガラスを濡らし始めていた。


「雨、降ってきちゃいましたね」

「本当だ」


 予報は曇りだったはずなのに。

 私達は並んで、白く霞み始めた外の景色を眺めていた。


「傘持ってきました?」

「折り畳み傘を最近は鞄に入れる様にしてる、雨男だから」

「え、先輩も?」


 私の言葉に、彼が不思議そうにこちらを振り向いた。


「先輩も?って…、どういう意味?」

「私も雨女なんです。いつも傘忘れるんですけど」

「君も折り畳み傘鞄に入れときなよ」

「おっしゃる通りで」


 ぐうの音も出ない私の返答に、彼はふっと、優しい笑みを零した。その瞬間、私の胸がうるさく鳴り響く。

 雨音さえ遠のいて、私は彼の横顔から、どうしても目を離すことができなくなった。

 この人のこんなに優しい表情を見たのは、入学式のあの日以来だった。

 駅での別れ際、雨に濡れる私に傘を差し出し、名前を名乗ってくれたあの瞬間。

 あの日を除けば、彼はいつも無表情だった。時折、考え事をするように眉が動いたり、目の開き具合がわずかに変わる程度。それだけの僅かな変化でしか、感情を読み取ることができない人。

 それなのに今、彼は私との他愛ない会話で、分かりやすく感情を露わにしてくれた。

 それは、私だけが見ることを許された奇跡のような気がした。
 彼にとって、私が特別なのかもしれないと期待したくなった。

 雨の音だけが響く静かな部室で、私はただ、彼の横顔から目が離せなくなっていた。
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