1度ならず2度までも君に恋をする
 しばらくの間、雨音のみが私の耳に届いていた。彼は、相変わらず無表情で雨空を見つめている。


(…聞こえて、なかったんだ)


 聞かれていなくて良かった様な、届かなかったことが寂しい様な、そんな複雑な感情に襲われる。

 今じゃなかったのかもしれないと、そう自分を納得させようと、彼から視線を外したその時だった。


「…俺も」


 隣から、雨音に紛れるほど掠れた声が聞こえた。

 一瞬、耳を疑った。そんな都合のいい返答があるはずがないから。


「…え?」


 恐る恐る隣を見上げると、そこには視線を逸らしたまま、先程よりもさらに赤くなった耳に、照れくさそうに口元を空いている手の甲で隠した彼がいた。

 ずっと一緒がいいなんて、私の独りよがりな願いに、俺もと短い言葉だったけれど答えてくれた。


「佐野、先輩…」


 掠れた声でその名前を呼ぶと、彼は一度だけ深く息を吐き、言い聞かせるように言葉を継いだ。


「…同じ気持ち」


 先ほどの私の独り言を、彼は肯定してくれた。

 不器用で、圧倒的に言葉は足りない。
 だけど、あの時の私達には、それで十分だった。
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