1度ならず2度までも君に恋をする
𓂃꙳⋆⭐︎




 気がつけば、誰かの腕の中にいた。運ばれるままタクシーのシートに沈み、ゆらゆらと心地よい振動に身を任せる。

 それがまた瞼を重くさせ、せっかく取り戻した意識が再度離れていきそうになる。

 それに抱えられている時、馴染みのある香りがした。

 ここにいるはずもないのに、いると錯覚してしまいそうなほど近くで…────。






𓂃꙳⋆⭐︎





 目が覚めたとき、私はなぜか真紘くんの腕の中にいた。

 お互いにあられもない姿で、どうしてこうなったのか、記憶の糸はぷっつりと切れている。

 困惑しながらも、そっと上体を起こすと、真紘くんが「ん…?」と声を漏らした。

 ゆっくりとまぶたが持ち上がり、至近距離で視線がぶつかる。相変わらずの無表情で、何を考えているのかは読み取れない。


「…おはよ」


 まだ眠たそうな、少し掠れた声。

 前回は聞けなかった気の抜けた声と、初めて見る無防備な表情。


「…おはよ」

「頭は?痛くない?」

「…大丈夫だけど、何があって…」

「君が家に着くなりキスしてくるから」

「え!?」


 とんでもない暴露に、思わず素っ頓狂な声が出た。

 そんな記憶は欠片もない。

 というか、知りたくなかった。
 酔った勢いで自分がそんな大胆な行動に出るなんて。


「家に連れてきて入るなり、真紘くんだ~~~~!って」

「…今すぐ記憶も私のことも埋めてください」


 絶望に打ちひしがれ、両手で顔を覆う。

 すると、真紘くんはふ、と小さく笑い、そのまま私の身体を横たわらせそっと抱き寄せる。


「今回は忘れなくていいから」


 少しの無言の後、そう静かな声がすぐ近くで聞こえる。


「え…」

「前回は無かったことにしようとしたけど、もうそんなことしなくていい」


 そう言いながら、またゆっくりと頭を撫でる。

 何か問題が解決したわけでもないのだけど、今はこうして受け入れられているだけで、すごく満たされた気持ちになった。

 拒絶されないことが、こんなにも嬉しいなんて。

 カーテンの隙間から差し込む朝日に包まれながら、私達はしばらく身を寄せ合い、幸せな朝を過ごしていた。
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