1度ならず2度までも君に恋をする
「あ…」


 とんでもないことを思い出した。

 佐久間さんと飲みに行ったあの日。お礼をすると約束していたのに、私は何ひとつ渡さないまま、ただ酔っ払っただけで、そこからは気付いたら真紘くんの家で過ごし、流れるように自分の家に帰ってきてしまった。

 メッセージで、会計の感謝や潰れてしまった謝罪は済ませてはいるけれど、文字だけで済む話ではない。思い返せば返すほど、自分がどこまでも迷惑をかけてしまっている事実に、顔から火が出そうになった。

 私は通勤用の鞄から、渡そうと思っていたブランデー入りのチョコレートの箱を取り出した。それを持ち、ストプラ局へと向かう。

 なんで、こんな大事なことを忘れていたんだろうと、自己嫌悪で泣きたくなる。






𓂃꙳⋆⭐︎






 恐る恐るストプラ局に顔を出すと、佐久間さんはデスクでモニターと向き合っていた。幸いなことに周りに人は少なく、私はそっと近付く。


「あの、佐久間さん…」


 声をかけると、佐久間さんはふと顔を上げ、いつもの柔らかい微笑みを浮かべた。


「森山。どうかした?」

「あの、先週は本当にすみませんでした!ごちそうにまでなったのに」

「気にしないで。よかったね、佐野が迎えに来てくれて」

「私、呼んでないはずなんですけど…」

「うん、俺が呼んだから」

「ええ?」


 思いもよらない一言に、思わず素っ頓狂な声が出た。

 まさか、佐久間さんが真紘くんを呼び出していたなんて。

 混乱と気恥ずかしさが一気に押し寄せてくる。


「嬉しかった?佐野が来てくれて」

「………嬉しかったです」


 嘘をつく余裕もなくて、たくさんの間を空けてから正直に答えると、佐久間さんはさらに踏み込むように声を潜めた。


「話せた?」

「それが…、まだ…」


 そういうと、彼は少し目を見開いて「まだ…?」と聞き返してくる。


「…そ、っか。まあ、タイミングがあるのかもね」

「幸せを噛み締めることに必死でした…」

「その段階に行くの早くない?」


 苦笑いする佐久間さんに、耐えがたいほどの羞恥心がこみ上げる。私はたまらず軽く咳払いをし「はい、これ!」と半ば押し付けるようにチョコレートを渡した。


「これは?」

「あの飲み会の時渡そうと思ってたのに、渡しそびれたんです。遅くなりましたが、今回の案件もすごくお世話になったので」

「ああ、いいのに。ありがとう」


 少し遠慮しながらも、佐久間さんは穏やかに受け取ってくれた。


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