1度ならず2度までも君に恋をする
 自分のデスクに着き仕事の準備をする。デスクの上はPCモニターにPCの周辺機器に、ペン立てに大量の資料などでいっぱいになっていた。作業するスペースを確保するために、軽く整理から始める。

 帰宅時にやっていくのが本来正しいことなのかもしれないけれど、帰りにはその元気はなく枯れ木のようになりながらオフィスを出て帰路に着く。

 そして仕事の日は毎朝、この散らかったデスクを見て絶望する。怠惰さと学習しない私に呆れ果て、仕方なく片付けから始め、仕事ができる環境を整える。

 そんな変わらない朝だったはずなのに、今朝はなんだかいつもよりも騒がしかった。周りの噂話がチラホラと聞こえてくる。ヘッドハンティングされたとか、若いクリエイティブディレクターだとか、そんな単語が。

 そんな話は一切なかったはずなのに、どうして突然…、と考え込んだ時、オフィスのドアが開き、そこに社長ともう1人の人物が入ってきた。

 あの日大学の入学式で見た時と同じ…、いや、それよりもかなり大人の男性になった。質のいいスーツに身を通し、ネイビーのネクタイに生えるシルバーのシンプルなネクタイピン。あの時と変わらない黒髪に白い肌、引き込まれるような切れ長で漆黒の瞳。そして無表情でどこか冷たい雰囲気。

 私が大きく目を見開いて彼を見ていると、ふと視線がこちらに向き交わった瞬間、彼も周囲に気付かれない程度に目を見開いていた。

 あまり感情が表情として出てこない彼だけど、私は見逃さない。交際していた時から、こうして見逃さないようにずっと見る癖がついていた。何年経過しようがその癖は私に染みついている。



 相手は大学時代の元恋人の佐野 真紘。卒業式の日に『別れよう。だからもう、連絡しないで』と一方的に告げ去った相手だった。




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