1度ならず2度までも君に恋をする
「そう」


 彼は何かを言いかけ、わずかに唇を動かしたけれど、結局それ以上は追及せずに私へと視線を戻した。

 私も恐る恐る彼を見返すと、彼はふいにつぶやくように問いかけてきた。


「帰る?」

「あ、はい。今日はもう、帰ろうかなと」

「…駅まで、一緒に行く?」


 その言葉に、思わず目を見開いた。

 会社では私と関わるのをあんなに避けていた人が、自ら誘ってくるなんて思いもしなかったから。

 驚きはしたけれど、余計なことを言って彼の気が変わってしまうのだけは避けたかった。


「はい!」


 食い気味に返事をして、私は慌てて残りの荷物を鞄に詰め込む。真紘くんは私の返事を聞くと、短く「じゃあ、下で」とだけ残して、自分のデスクへと戻っていった。

 あの日の一夜から、少しずつ良い方向へ動き出している。それがどうしようもなく嬉しくて、私は浮き立ちそうな足取りを必死に抑えながら、オフィスの出口へと急いだ。
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