1度ならず2度までも君に恋をする
 駅の改札前に着き、私達は自然と向かい合った。このまま離れるのが少し名残惜しいけれど、わがままを言って困らせるわけにもいかない。


「じゃあ、ここで」

「…うん」


 そう言葉を交わしたはずなのに、二人とも一歩もその場から動こうとしない。

 数秒の奇妙な沈黙が流れ、私達は同時にお互いを見て、不思議そうに首を傾げた。


「行かないの?」

「真紘くんこそ」

「先行きなよ」

「いえいえ、お先に。先輩より先に行く訳には」

「レディーファーストでしょ」

「いやいや」


 お互いに譲り合っているうちに、だんだんとおかしくなってきて、どちらからともなく笑いがこぼれた。

 真紘くんがこんな風に声を上げて笑うのを、私は久しぶりに見た気がする。


「じゃあ、同時に行く?」

「…本当に同時に?」


 念を押すように聞き返すと、彼は「うん」と短く頷いたけれど、きっと二人とも、心の中では分かっている。

 そう言い合いながらも、結局どちらも背中を向けることができなくて、お互いを見送ろうとすることを。


「私達って、昔からいつもこうだね」

「何が?」

「電話も、いつも相手から切ってもらおうとしたり」

「ああ、そうだっけ」


 懐かしい思い出に、真紘くんがふ、と表情を和らげるのを、私は見逃さなかった。

 五年前は、受話器越しに聞こえる彼の呼吸さえも愛おしくて、切るのがもったいなくて、寂しくて、自分じゃ出来ないから彼に委ねたのに彼も切ってくれなくて、そんな懐かしい思い出。
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