1度ならず2度までも君に恋をする
 もう何度目かになる彼の部屋。玄関で靴を脱ぎ、そのままソファへと促された。

 座った瞬間、真紘くんの腕が私の肩に回り、引き寄せられる。至近距離で見つめ合うと、彼は大きな掌を私の頬に添え、親指の腹でそっとなぞった。

 嫌じゃないかと私の反応を確かめるような、彼なりの不器用な優しさだった。私が拒まずに見つめ返すと、彼はわずかに目を伏せ、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 重なり合う唇に抵抗することなく、むしろ受け入れる様に背に手を回した。

 こうなる事なんて最初からわかっていた。
 言葉にするまでもなく同意だった。

 だから彼はあの駅の改札で、逃げられるはずの猶予を少しだけ与えてくれたのに、私はその場から動かなかった。彼の手を振り払うことも、背を向けることもしなかった。

 一度重なった熱は、もう離れることを知らない。彼の指先が髪に深く潜り込み、引き寄せられる力がさらに強くなる。

 付き合おうと言われたわけでもない。

 何かと理由をつけては彼の部屋へ行き、身体を重ねる。そんな今の自分達の関係性は、かなり歪だと思う。

 けれど、たとえ歪だとしても、今の私にはこの微かな繋がりを断ち切る勇気がなかった。離れれば、またあの五年前のまた苦しかったあの日々に戻ってしまう気がした。

 彼が私の頬を撫でる指先の熱も、私の名前を呼ぶ低い声も、今はただ、この手が届く場所にあることだけで救われていた。


「…真紘く…ん…っ…」


 キスの合間に吐息とともに名前を零すと、彼は手を私の腰に移動させさらに強く引き寄せた。それから再度、唇を重ね合わせ、また溺れていく。

 未来の約束なんて、今はまだ怖くて聞けない。ただ、この壊れそうな関係に縋り付いて、今は傍にいてくれているという実感がほしかった。
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