1度ならず2度までも君に恋をする
 笑う私を見て、佐久間さんも少し照れくさそうに「笑うなって」とこぼした。しばらくの間、穏やかな空気が流れる。

 こうしていつも私の異変にいち早く気づき、押し付けがましくなく励ましてくれる。そんなところが、いかにも佐久間さん"らしい"と思っていた。


「…言いたくないなら言わなくていいけど、辛い時は俺の事逃げ場にしてもいいよ」

「…え?」


 その言葉に微かな違和感を覚え、私は佐久間さんの顔を見た。

 いつもの優しい表情だけれど、その奥に言葉にできない葛藤や、胸を締め付けるような痛みを堪えているような…、少しだけ切ない顔をしていた。

 もしかして、と直感したのは、その時だった。


「ご飯でも、どこでも連れてくし」

「…ありがとうございます」


 好きだとか、そんな甘い言葉を投げかけられたわけじゃない。けれど、今感じたこの胸のざわつきは、きっと間違いではないと思う。

佐久間さんの秘めていた気持ちに気づいてしまい、私はどう振る舞えばいいのか分からなくなった。

 一度、深く深呼吸をする。

 佐久間さんがはっきりと言葉にして想いを伝えてきていない以上、私から何かを問いかけたり、拒んだりすることはできない。今の私にできるのは、ただ気付かないふりをして、いつも通りに振る舞うことだけ。

 それは自分を守るための卑怯な沈黙かもしれない。それでも、もし想いを伝えられる前から推測で距離を置かれてしまったら、そんなの私も佐久間さんもさみしい。


「よし、戻りますね!佐久間さん、ミルクティーありがとうございました!」

「うん、また」

「はい!」


 そう明るく振る舞い軽く一礼すると、佐久間さんに背を向ける。


(気付かないふりなんて卑怯なやり方で、佐久間さんからの気持ちに逃げてしまってごめんなさい)


 誰に届くこともない謝罪を心の中で何度も繰り返しながら、私は一度も振り返らずにその場を離れた。
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