恋は手のひらの上で
後部座席でやいのやいの言っているからか、運転している営業の佐竹さんが「まあまあ」と私たちを止めに入る。
ルームミラー越しに視線を送ってきた。

「西野さん、何年目だっけ?初めてだもんね、こんな大きな案件を任されるの」

「はい…初めてです」

心の中で、五年目です、と答える。
五年目にしてやっと掴んだ、商品開発のチーフ。
どんなに指摘されようが、どんなに論破されようが、食らいつこうと覚悟を決めて今日を迎えたのだ。

まだ、心は折れてない。


「西野さん、珍しくピンヒールで」

“激突された側”の朝倉課長が助手席で肩を揺らした。
私はぎくっと別の意味で心を揺らす。

「あ…さっきはすみませんでした…。課長がいなければ私は今頃、足を捻挫していたかも」

「いいよいいよ。西野さんって、なんでも似合うんだねぇ」

押しつけがましくない、本心からの言葉なのは分かる。
分かるのに─────。


『背伸び、悪くないと思います』

少し前の、椎名さんの声が耳に残る。


彼の方が嬉しいと思ってしまったのは、初めて会った人に褒めてもらったからなのだろうか。




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