恋は手のひらの上で
「す、すみません。あまりの衝撃で」
「そんな衝撃的なことは言ってないです」
自覚ないの?
私が手を止めて彼を見ると、にやりと笑っていた。
…違う、自覚ある。
面白がっているというよりも、確信を持っている。
悔しい気持ちと、でも嬉しい気持ちが混ざる。
書類を全部集め終わって、やっとまた立ち上がったところで私もスマホを出して仕事のスケジュールを確認した。
彼のスマホと私のスマホが隣に並べられる。
二人で画面を覗いて、やっと日にちが決まった。
「じゃあ、来週の水曜ですね」
決断が早い。こんなに早く進むものなのか?
でも、嫌ではない。
むしろ、曖昧にされなかったことが心に残る。
『今度、飲みに行こう』と言われるより、誠実だ。
「お店を決めたら、待ち合わせ場所もあとで連絡します。…西野さん、大丈夫ですか?」
ぼんやりしているからか、目の前で手を振られた。
手のひらまで、彼はきれいだった。
「はい…大丈夫です…。たぶん」
「歩けます?」
また、ちょっと私を試してる。
「歩けますよ!」
「衝撃は?」
「それは、そりゃ、まだ残ってますけど」
歩き出した足取りは、どこか軽い。
さっきまで会議で一緒に盾を作っていた人が、隣でそっと私だけの盾をこじ開けたみたいだ。
盾を作ったはずなのに。
守るはずだったのに。
いま一番無防備なの、もしかして、私?
ヒールの音が、さっきより少しだけ高く響いているような気がした。