恋は手のひらの上で
「すみません」
と、気がついたら店員さんを呼んでいた。

「もう一杯、同じのください」

椎名さんが、少しだけ目を丸くする。

「西野さん、飲みすぎなのでは?」

「大丈夫!だーいじょうぶです!」

自分でも分かるくらい、声が軽い。
くすっと笑うと、頬が熱いのは自覚していた。

何杯飲んだか、とりあえず記憶はない。
彼も途切れなくビールはずっと飲んでいるけれど、顔色ひとつ変えないところがまた彼らしい。

「そんなにお酒は強くなさそうですけど。大丈夫ですか?」

「そんなことないです。意外と強いです」

「“意外と”…」

椎名さんは明らかに怪しんでいる。

「疑ってますねー?」

聞きながら、また笑ってしまった。

たぶん、もう、それなりに酔っている。
でも、嫌な感じじゃない。
むしろ、体のどこかの力が抜けて、さっきより呼吸がしやすい。

新しいグラスが運ばれてくる。
私はそれを受け取って、ふと椎名さんを見る。

「椎名さんって」

「はい」

「電車で寝過ごすタイプですか?」

一瞬、沈黙が落ちた。
それから椎名さんが、少しだけ笑う。

「ずいぶんと急ですね」

「私、たまにやるんですよ」

こくっとワインをひと口飲む。

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