恋は手のひらの上で
ここ、会議室です
エレベーターの扉が開く。

一階のロビーは、昼間よりも少しだけ落ち着いた空気だった。もう時間は夕方。

人は多いけれど、朝の慌ただしさとは違う。


私は一歩外に出て、周りを見渡す。
そして、すぐに分かった。

ロビーの奥。

柱の近くに、背の高いスーツ姿の男性が立っている。
椎名さんだった。

スマホを見下ろしているだけなのに、なぜか周りの空気と少し違う。

この人は、どこにいてもすぐ分かる。


胸の奥が、どくんと鳴る。

…落ち着け。
ただの打ち合わせだ。

そう自分に言い聞かせながら、私は歩き出す。


今日は、保湿ジェルの商品化に向けた最終打ち合わせだ。
私の勤める朝比奈化粧品まで足を運んでもらっていた。


近づくにつれて、椎名さんが顔を上げた。

目が合う。
その瞬間、ほんの少しだけ表情が変わる。

仕事のときに見せる、あの落ち着いた顔ではない。
一瞬だけ口元がやわらぐ、優しい顔。


…あ。私を見つけた顔だ。
この間も見た。

それだけで、心臓がまた大きく鳴る。


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