恋は手のひらの上で
「西野さんがここまで作ってきたものなので」

そこで初めて、はっきり笑う。

「ちゃんと形にしたいと思ってます」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。


私は思わず視線を落とした。
ありがとうございます、と口の中でつぶやく。


会議室の外では、まだ人の足音が聞こえる。
さっきまで役員たちがいた空間なのに、もう別の場所みたいに静かだった。


やっと、商品化するんだ。
ようやく現実になった気がする。


机にあるノートパソコンを閉じた椎名さんが、片付けながらなにかをふと思い出したように手を止めた。

「あ、西野さん」

「はい?」

「これからきっともっと忙しくなると思います。でも」

言葉が途切れたので、私も作業を止めて何事かと振り向く。すると、彼は念を押してきた。

「また倒れちゃだめですよ」

「─────肝に銘じます」

同じ過ちは、繰り返さない。
体調管理がちゃんとしていなければ、いい商品は作れない。


「ただ、ちょっとだけほっとしました」

私のぽろっと言ったひと言に、椎名さんはすぐに

「俺もです」

とうなずいた。

共同開発なのだから、同じ方向を向くのは当然。
緊張もあったはず。
それを見せず、私を支え続けてくれたのは事実だ。

すべてにおいて信頼できる人と、この仕事ができてよかった。



会議室の窓の向こうでは、夜の街の灯りが広がっている。

ここまで来た。
そう思った瞬間、胸の奥でなぜか別の鼓動が鳴る。


仕事の緊張とは、少し違う。

私は小さく息をついた。


…たぶん。
まだ、終わっていない。

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