恋は手のひらの上で
私はとにかくこの空気をどうにかしたくて、慌てて二人の肩を押した。

「ほら、二人とも仕事戻って」

「えー」

「もうちょっと!もうちょっとだけ!」

「だめだってば!」

半ば強引に、ドアの方へ押す。


紗英が振り返る。

「芽依」

「な、なに」

にやっと笑うその表情が、怖い。

「あとで聞くからね?」

私は、何も言えなかった。

その横で、椎名さんが静かに咳払いをする。
私は思わずそちらを見ると、目が合う。
ほんの少しだけ椎名さんが笑った。



ドアがバタンと閉まる。
会議室が、急に静かになる。


私はしばらくドアの方を見ていた。

心臓が、まだ全然落ち着かない。

…まずい。


振り返ると、椎名さんは荷物をまとめて、ジャケットを羽織っているところだった。


私は思わず謝ってしまった。

「…すみません」

椎名さんの不思議そうな顔が私を見る。

「なにがですか?」

「同期も…、シャツも…」

口ごもりながら、なんとか言葉を探す。
この一連の出来事がいまだに信じられない。

「もう全部、ごめんなさい」

椎名さんは一瞬だけ考える顔をした。

「それはまあ、驚きましたけど」

「どれが?」

「…西野さんの積極性?」


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