恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

ドアを開けた瞬間、嫌な予感が当たった。


紗英が、わざとよく見える場所で立ち上がる。

「主役きたー!」

と、店内に響く大きな声で手招きしている。
その隣には、同期だけど部署が違う企画部の麻耶。

どちらも馴染みの顔だ。

麻耶がグラスを掲げる。

「本日の大イベント、始まるよー!」

紗英と麻耶が声を揃える。


「「高橋翔太失恋供養会でーす!」」


周りの客が一斉にこっちを見る。マジでやめてくれ。


俺はドアノブを握ったまま言った。

「帰る」

「帰るな!」

すかさず紗英が引き止め、無理やり背中を押してくる。
店内の注目を浴びている時点で、本当に帰りたい。

もちろんそんなのは無理で、俺は二人の座っているテーブルへついた。


「主役がいなくてどーする!」

麻耶がビールを差し出してくる。

「ほら、乾杯するよ」

「何に?」

俺が聞き返すと、間髪入れずに紗英が遮った。

「高橋の失恋に!」

「やめろって」

「あー、高橋、ボケが雑」

こいつら、本当になんなんだ。

ジョッキを握らされ、ガツンと乾杯させられた。


「結局、ずーっと断られてたの?」

もうテーブルにずらりと並んでいるつまみを、指先で持ち上げて麻耶が尋ねてくる。

遠回しなようでいて、直球の質問。

「知ってんだろ、いちいち聞かなくても」

女のネットワークの怖さは、もうすでに知ってる。


「芽依は優しいから、うちらにもはっきりは言わないんだよね」

「たしかにそうだったよね」


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