恋は手のひらの上で
二人のやり取りで、西野のいいところが思い浮かぶ。

いつもそうだ。
絶対に困っているはずなのに、絶対に助けてほしいはずなのに、絶対にピンチなのに、口には出さない。
そういう人だった。


「好きだとは伝えてない」

ビールを半分くらい飲んだところで正直に話すと、紗英たちは目を丸くしていた。

「え???」
「どういうこと?」

「そのまんま。あいつに、ちゃんと好きとは言ってないんだ」

「えっ、それでなんでこんなヘコんでんの?」

紗英の素朴な疑問は、わりと痛いところをついてくる。

「言ったら、困らせるの分かってたから」


一瞬、沈黙が訪れる。

破ったのは、麻耶だった。
頬杖をついて、どこか面白そうに笑う。

「意外と、ちゃんと芽依のこと、大事にしてたんだね」

「─────意外と、は余計だ」


近づきたくて、距離を縮めた。
振り向いてほしくて、いらない言葉もかけた。
笑ってほしくて、つい茶化すこともあった。

…でも。
西野にとって、求めるものはそれじゃなかった。


次の瞬間、パアン!と背中を叩かれた。

あまりにも唐突で、驚いて後ろを見ると紗英だった。


「いるって!あんたに合う子!どこかに!」

「おい、酔っ払うな。全然かわいくねーぞ」

思わず手を払いのけると、麻耶の冷静な声。

「高橋、紗英まったく酔ってないよ。お酒強いもん」

「え?」

「“かわいくねー”って言葉、一生覚えてるからね?」


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