恋は手のひらの上で
あんな顔、するんだな
午後の小会議室。

私の会社は東央ヘルスケアほどの大きな会社ではないので、小会議室もかなりこじんまりしていて、窓も小さい。

空調の機械音が低く聞こえる。


ノートパソコンの前に座り、深呼吸をひとつ。
リモート会議はこれで三度目になる。

画面には各部署の参加者が並び、中央に椎名さんの顔がある。


「お疲れさまです。本日は前回の議論を踏まえて、広告費シミュレーションとCVR改善策の進捗報告をいたします」

分割画面のひとつに、私の作ったスライドが映る。
手元のパソコンで切り替えたのだ。

画面の向こうで、椎名さんが少し目を細めて載せたスライドの数値やグラフを真剣に見ているのが分かる。

彼の落ち着いた表情に、つい視線を向けてしまう。
向こうのオフィスにも午後の日差しが降り注いでいるらしい。
椎名さんの半分は光に照らされていた。

『初期フェーズでCVR3.7%を想定していますが、母数が増えた場合の安定性はどう見ていますか?』

その茶色い髪の毛を眺めていたら、ふと質問されたものだから、内心慌てる。

私は指でグラフをなぞりながら答えた。

「あっ、はい!初期テストでは到達していますが、サンプルはまだ限定的です。広告文言やレビュー誘導設計を調整することで、安定させる予定です」

椎名さんはうなずき、手元のノートパソコンに軽く手を置く。その仕草だけで、画面越しなのに存在感が圧倒的だ。


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