恋は手のひらの上で
視線が合う。薄い茶色の瞳は独特だ。

「ただ、ターゲットペルソナの具体像をもう少し詰めたいですね。年齢レンジは?」

「二十五歳から三十四歳の都市勤務女性を想定しています。オフィスワーカー、在宅併用層を中心に」

「チャネルは?」

「御社の既存ドラッグストアラインに加え、EC限定のスターターキット展開も検討しています」

椎名さんがあごに手を当てる。
しばらく考えるようにこちらを見た。

「EC展開をするなら、レビュー誘導設計も初期から組み込んだ方がいいですね。トライアルサイズでのUGC生成を前提に」

否定しない。足りない部分を静かに示す。
そんな人だと思った。

私は急いでうなずく。

「参考にさせていただきます」


場を仕切り直すつもりで、「では、次へ参ります」と言おうとした瞬間。

手元のスライドで数値を見間違えた。

─────あ、やばい…初期CPAが…。

手が震えるのが自分でも分かる。全員の視線も痛いほど感じる。

「えっと…この数字は…」

言葉が詰まる。心臓がひやり。

そのとき、椎名さんが静かにペンを机に置いた。

さっと近くに来て、私の資料と自分の資料を見比べる。
指先で角度を整え、数字が見やすくなるようそっと補助。

「この列ですね」

彼のその指先と言葉で、浅かった呼吸も少しずつ整う。
声も視線も責めない。

ただ、必要な方向を示すだけ。

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