恋は手のひらの上で
ホッとしたのもつかの間、椎名さんが続ける。

「in vitroですね。in vivoの予定は?」

─────逃げ道なし。

またしても手元をばたばたさせながら、慌てるな、と自分に言い聞かせる。

「えーと、現在はラボ試験段階です。ただ、次フェーズで、屋外環境下の実使用試験を計画しています」

椎名さんが静かにうなずく。

「そのデータがあれば、御社が想定されている上代二千八百円でも説得力が出ると思います。この想定はどこから?」

「本数値は、テスト前提の暫定価格です」

では、と黒田さんが口を開いた。

「市場のアンチポリューション領域は伸びています。ただし、競合は多い。差別化の鍵は?」

絶対に聞かれると思っていた質問だ。
私は一呼吸置く。ヒールに体重を乗せる。

資料を握る手に力を入れ、向こうに座る三人を見据えた。

「都市生活者の“守り”に特化します。攻めの美白ではなく、生活防御型スキンケア。大気汚染、空調乾燥、花粉。外的ストレスに晒される日常を前提とした設計です」

室内が静かになる。
椎名さんが微笑んだ。

「コンセプトは明確ですね」

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