恋は手のひらの上で
だめだ、この二人に口で勝てるわけがなかった。
すでに空になったグラスを、意味もなく口元に運ぶ。

時間稼ぎも、もうできない。

「芽依の中で、椎名さんは“あり”?“なし”?」

核心をつくような紗英の問いに、私は思わず顔を隠した。
心臓がずっと痛い。

「………ちょっと、それは、答えにくい」

完全に二人のペースに飲み込まれ、帰りたい気持ちが膨らんでいく。

手を基準にしてきた私が、顔や立ち居振る舞いで動揺させられる日が来るなんて。
あの手とあの笑顔のことを思い出すと、少し胸がざわついた。


「最初の時なんて、絶対に好きにならないって豪語してたのにねー?」

「これは高橋、相当がんばらないとヤバいんじゃない?」

「念のため、やつに注意喚起のライン送っておく?」

「だ、だめ!!」

二人は取り乱す私を見て、楽しそうに笑っていた。

二人の笑い声に包まれながら、私は空になったグラスを指先でくるりと回す。


『芽依の中で、椎名さんは“あり”?“なし”?』

まだ答えていない問いが、胸の奥で小さく揺れていた。
椎名さんのことも、高橋のことも。

ちゃんと向き合ったことなんて、なかったのかもしれない。

手だけを見ていれば、楽だった。
基準は明確で、迷う余地もなかったから。

けれど今日は、あの指先だけじゃなく、自然に笑った横顔まで思い出してしまう。


「もう一杯いく?」と紗英が笑う。

私は首を振って、まだ考えあぐねている自分の気持ちを推し量っていた。


恋も、仕事も、ずっと自分の手のひらの上で転がしているつもりだった。

なのに、気づけば少しだけ、指の隙間からなにかがこぼれ落ちそうになっていた。

それが恋なのか、それとも覚悟なのか、まだ私は知らない。



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