恋は手のひらの上で
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うちの会社の工場は、都内から車で二時間ほどのところにある。
県外なので、足を運ぶことは少ない。

高橋のように技術面でのアプローチをする仕事をしている人たちは、工場へ行くことは多い。


県境を越えるころ、景色はビルから畑に変わっていた。

運転席から高橋が声をかけてきた。

「もしかして、緊張してる?」

ハンドルを握ったまま、横目で笑う。
私はその顔を助手席からちらりと見て、また窓の外へ視線を戻した。

「してないよ」

…嘘だった。
朝からずっと緊張している。

言ってしまえば、このプロジェクトを任された時から、気が休まる瞬間なんてなかった。


「今日は、西野が“決める日”だからなぁ」

彼はいつものテンションで軽く言うけれど、その本質は、果てしなく重い。

先輩たちが悩み、苦しみ、もがいて、考えて決めていく姿を見てきた。
これまではずっとその姿を外側から見ているだけだった。
内側に入ったことはなかった。


私は窓の外を流れる、どこまでも続くのどかな風景を眺めながら、少し寒い車内で足元に力を入れた。

「…うん。分かってる」


エンジン音と、少しだけ早い自分の鼓動。
この時は、まさか帰りが違う車になるなんて思ってなかった。



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