俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 それは、誠治の胸の奥から生じる、抗えない欲求だった。

 いつも、まともに見つめると彼女は目を逸らす。

 そのたびに、もどかしさで、誠治はこころをかきむしられそうになる。

 よくも知らない人間に、ここまで腹を割って話すのは、一条誠治にとって初めての体験だった。

 彼にとって世界は、常に薄い透明な膜を通して存在していた。

 人生とは、ロールプレイだった。

 たまに刺激的、だけど大概は退屈極まりない。

 家族には、本当は『一条誠治』ではないのにも関わらず『一条誠治』であることを求められ。

 学校や友達も同様だった。誠治の出生の秘密を知ったうえで、貰われっ子と陰口を叩く人間もいた。だから、彼は人間が簡単には信用できなくなった。

 ところが、小銭が散らばる音を聞き。床に散る茶色や、銀色の小銭を見たときに――

 急に、世界が色づいて見えたのだ。

 ああ、ここは自分が動くべき場面なのだと勝手にからだが動いた。

 それは、小さなことであっても、彼が自分の存在価値を信じられた貴重な機会だった。

 拾うのはなにも、『一条誠治』に限らず、『おれ』であればそれで良かったのだった。

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