俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~

■3

 なかなか、斬新な体験だった。


「いらっしゃいませ」と作り笑いを客に向ける。ハンディの操作に手間取る。ハンディに新しく加わる、季節ごとの限定メニューに苦戦する。オーダーを間違え、怒った女性客に頭を下げると、でもいいのよ、と何故か手を握られる。

 いろんなことが、初めてづくしだった。

 そこでは、『一条誠治』であることは、問題にならない。いちアルバイターとしてただそこで役目を果たせばいいだけだ。彼は、幼稚舎から大学付属の学校に通っており、高校も九割が顔見知りの人間、大学も半数が内部進学組。よって、『一条誠治』の役目から開放される機会は限られた。

 なるべく、シフトは彼女に合わせた。

 前期は、三時間目と五時間目の空き時間が暇だった。彼女も同じだったから、その時間は二人で過ごした。学食でだべったり図書館に行ったりパソコンルームに行ってチャットをしたり。

 彼女に、目に見えて分かる変化が訪れたのは、意外と早く。ゴールデン・ウィーク直後だった。
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