俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 いまだわたしの鼻は濡れており、必然、風呂に入ることとなる。

 と、ここで思い出したことが。

「あっちゃあ。バスタブにまだお湯張ってないや」

「ゆっくり入ってこいよ、爆買いちゃん」

「誰が爆買いちゃんじゃ!」

 ははは、と肩を揺らして笑う彼のシルエット。

 スーツを脱いだ、ワイシャツの広くて頼もしい男の背中。

 ――すがりつきたい。

 ふと過ぎったその考えにわたしは驚いてしまった。確かに彼は魅力的な男ではある。だからといって、……振られた傷を癒やせというのはちょっとどころかだいぶ違うんじゃないかと。

 それに彼には、本命さんがいるんだし。

 わたしは、彼の恋路を邪魔しちゃいけない。間違っても期待しちゃいけない。彼がわたしに『秘密』だと言ったのだし、その彼の意志はどこまでも尊重されるべきだろう。

 お風呂を沸かす間、彼のパジャマと自分のパジャマを用意するわけだけれど。

 柄にもなく、沈んだ気分でそれを行ってしまったのは内緒だ。
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