俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 一条家のため。一条のために、勉強をしろ。友達をいじめるな。一条の名を汚すような真似をするな。

 父親は厳しく、母親は沈黙していた。あの両親が。

 自分を求め、愛していることなど、考えられないではないか……。

 津波のように感情が迫り来る。誠治とて、両親が自分をちゃんと見てくれる瞬間があることに気づいていた。だが、それは、彼の孤独なこころを満たすほどの威力はなかった。

 誠治は胸を押さえる。「一条、先輩……」と、気遣わしげな彼女の声。

 自分が、いまするべきことは、彼女に不安を抱かせることではない。

 真実よりも、大切なことはなにか。

 誠治は、顔を起こした。出会った頃の、不安げな瞳が、そこにはあった。

 彼女は、変わった。

 誠治は、彼女を変えたかった。

 そして、決意とともに口を開く。

「きみがそう言うんなら、……それが真実なんだろうね」

 きみを喜ばせるためなら、おれは、どんな嘘だってつく。

 だから、そんな顔などするな。

 おれの前では、絶対に。

「……血のつながりはなくとも。ぼくは、両親に愛されて育った」
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