俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~

 誠治は、彼女の好きな鴨肉をメインにオーダーした。……もとより、食べてくれることなど期待していなかったが。

 婚約者との結婚は七ヶ月後。潮時だと思い、誠治は松岡綾乃に別れを告げた。

 あっさりしたものだった。笑みすら浮かべあの笑みは彼女の意地とプライドだったのだろう――彼女はこの場から去った。『お幸せに』と言い残して。今頃泣いているかもしれないが。

 グラスを傾け、誠治は突きあげる想いと格闘した。

 慰めるのはおれの役割ではない。

 朝、会社を出る前に共通の知人に電話をした。昨日しなかったのは、諦めの悪い部分が誠治のなかに残っていたからだ。……実を言うと今日、綾乃の顔を見ても、まだ言うべきか迷った。相手にはそれなりにぼかして伝えるよう頼んでおいたから、今頃彼の知るところだろう。

 小池丈一郎ならば、松岡綾乃に、本当に男に愛されることの悦びを教えてくれるはずだ。誰もが性に欲に溺れる大学時代にただ一人を健気に思い続けたあいつならば。

 おれには望みなど、もう、なにもない。自分の人生は切り開いていくもの、そして、流れに抗わずただ従っていくもの。
< 140 / 259 >

この作品をシェア

pagetop