俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 穏やかに話しかけるその声は、どこか機械的かつ儀礼的で、誠治にはそれが自分のものとは感じられないほどだった。


 * * *


 気持ちが、見るものを定義する。要するに、気持ちが乗っていなければ、なにを見ても楽しくないのだ。

 このときの誠治も同じだった。

 庭師をいったい何人雇っているんだと思えるくらいの、見るからに手のかかった広大な庭園に降り立ったところで、誠治のこころは、まったく満たされなかった。紅葉はすこし過ぎた頃だが、それでも赤や黄などの色とりどりの葉が美しい。だが、その美しさは誠治のこころの表面を、街で見かける見知らぬ通行人のごとくただ通り過ぎていく。

「わたし――誠治さんを、お見かけしたことがあるんです、……ずいぶんと前のことですけども」

 不意に、誠治に後ろ姿だけを晒していた女が、口を開いた。

 虚を突かれ誠治は尋ねる。「……いつのことです?」

 女とは初対面のはずだった。彼に、この女を見た記憶はない。

「背中にランドセルを担いでいらっしゃいました。……誠治様が、小学校、三年生の頃だったかと」
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