俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 高いところから振る滝の水が、大きな池へと落ちていく。この世の些細なことが、大きな流れへと繋がっていくように。

「わたし、……、

 恋をしたことが、ありませんの」

 女にとっては思い切った告白だったようだが、誠治はさほど関心を引かれなかった。

 だが彼は黙って女の話を聞いた。生涯をともに生きていく相手だから。

 相手の価値観を、知る必要がある。

「わたしは、……自分の結婚相手が決められていることを、小学校に入ったばかりの頃に知らされたのです。……会うのは互いが最低でも十八歳を過ぎてから。そう聞かされてはいましたが、その話を知ったときにいてもたってもおられず、……あるとき、思い切って、誠治様のご自宅を訪れたのです」

「誠治でいいよ」誠治は苦笑いをする。二度も誠治様などと呼ばれるとなんだか、こそばゆい。

「……正確には、誠治さんのご自宅を訪ねる前に、近所の公園で誠治さんをお見かけしました」女は意外にも適応力がある。誠治は、内心で女の第一印象を修正した。「誠治さんは、お一人で、……泣いておられました。

 声を押し殺して、たった一人で……」

 ――あのときか。
< 144 / 259 >

この作品をシェア

pagetop