俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 誠治は、あのときを思い返す。いくら素性を隠そうとも、その人間の育ちは服装や言動で分かってしまうものだ。出会っていたら、『確信』しただろう。この女も他のやつらと同じ。『貰われっ子』というステレオタイプを外そうとしない、鼻持ちならないブルジョアの連中の一人だと。

「奇妙に聞こえるかもしれませんが、わたしは、そのとき、誠治様を好きになったのです。

 ああ、このひとを幸せにしたいと強く、強く思ったのです。

 顔が見えなくとも、惹かれるなにかがありました。

 あのときの少年が、常に、わたしのこころの中心にあります。

 ……誠治様。

 このようなわたしと、一緒になってくださいますか……?」

 女の振り向く動きがスローモーションに見えた。まとめあげた髪の下のうなじ。淡い着物の色合い。鮮やかな緑を背景に急速に世界が、色づいて見えた。

 細い、穏やかな目が誠治を捉える。その瞳に嘘などなかった。

 恋い焦がれる女の情熱と、母のように思慮を備えた理性の二つをそこに見た。

 物体が地球の引力に導かれるように、誠治の口からは自然と言葉がこぼれ落ちていた。


「ぼくでよければ」



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