俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~

 とはいえ、誠治は内心で少々彼らに同情をした。彼らに命令を下すのは雇い主であるが、彼の妻は、これといった指示を出さず、ただ息子の言動に慌てふためき、そして最後に叱りつけるばかり。

 息子は、叱られると喜色満面。ママにかまってもらえるのが、嬉しいのだ。だがそれは永久に続くものではない。彼のなかに叱られることへの恐怖が芽生える前に、大人が思想そして態度を変える必要があるだろう。誠治は、そのことを実感として分かっている。

 息子には、父親に叱られておどおどする顔など、させたくない。

 とはいえ、それを妻に説明し、納得させるには時期尚早。彼女の側も、なにかしらの気分転換が必要なようだ。

「……きみも、真人は誰かに任せて、ぼくと一緒に出かける?」

「いいえ、わたしは……」ドレスを着て晴れがましい場へ出かけるなど、女性にとっては決して悪くはない提案だと思うのに、妻は首を振る。「ここで、あなたの帰りを待っております……」

「ぼく、ちょっと遅くなると思うよ」誠治は腕時計を見た。十七時だった。「食事は先に済ませてて」

「分かりました」
< 150 / 259 >

この作品をシェア

pagetop