俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 きみと小池丈一郎ほどの熱愛ではないにしても、静かなる情愛が、ぼくを、満たしてくれている。

 そして彼は思い返す。

 細い目をした妻が、初恋を語った日のことを。

 誠治を受け入れ、震えた夜のことを。

 誠治が、自分の育ちを告白すると、彼女は涙した。姑と舅との同居は精神的に負担がかかるだろうと、彼女のために別の場所で住むことも考えたのだが、彼女は頑として譲らなかった。

『誠治さんを守るために、そして理解してもらうためにも、わたしは誠治さんの実家に住みます』

 二十四時間もの陣痛に耐え、新たなる生命をこの世に生み出し、汗まみれの顔で、誠治に笑いかけてくれたあの朝のことを。

 赤い顔をした尊い命を目の当たりにしたときに炎の塊のような情が湧きあがった。この子を守りぬき育て抜くのがおれの使命だと、一条誠治は全身で感じたのだった。理屈ではない、本能だった。

 国家権力に支配され。父親の作った檻に閉じ込められ。繰り返し再生産されるイデオロギーにさいなまれながらも。

 ぼくは、孤独のなかから幸せを見つけた。

 だから、きみも、そうであって欲しい。


 きみは、ぼくの花だから。

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