俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
(ああ、可愛い……)

 産まれた優香を抱いた瞬間、天使みたいな子だと思ったんだよ。そう語った綾乃の気持ちがよく分かった。

「優香が寝てるおかげで助かったけど。でも結局、飛行機に乗ってるあいだじゅう、いつギャン泣きするかヒヤヒヤして、落ち着かなかったよ」

 舌を出す綾乃に丈一郎は目を向ける。「そんなに。うるさいの? 優香って」

「優香っていうか、赤ちゃん全般がそんなもんみたいよ」

 我が子の天使のような寝顔を見つめ、頭にそっと触れると、陽だまりのようなあたたかな感情の塊が胸のうちに落ちてくる。なんと、愛おしいのか。

 この子は確かに生きている。

 理屈ではなく、命の尊さを実感した。

 丈一郎は、綾乃の重たそうなボストンバッグに気がついた。「持つよ」

「ありがと」

 どうやら、綾乃は痩せた。最後に会ったときは、妊娠して10kg太ったことを悲しんでいたが、見る限り、元通りに戻った様子。遠目に見ても、ワンピースから覗く足は細く見えた。近くに見ると、頬の肉が薄くなったことが分かる。髪は、前よりも伸び、後ろで結いている。
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