俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 聞きたいことも、話したいことも伝えたいこともたくさんあった。けども。いまは、母子の疲れを取ることが最優先だろう。

「それじゃあ――優香が起きないうちに早く帰んなきゃだな」

 丈一郎が持ちかけると、にっこりと妻は応じた。「そうしよ」

 * * *

「あ。けいちゃん。悪いんだけど、上着脱ぐの、手伝ってくんない?」

 振り返ると、玄関で立ったまま、綾乃が困った顔をしていた。

 飛行機のなかでは上着を着ていなかったらしいが、外だとさすがにそれでは寒いだろうと、電車に乗る前に、丈一郎は、綾乃に上着を着せてやったのだった。

「あ。悪い」なんだか、子どもが産まれると、あらゆることが『変わってしまうのだな』と丈一郎は思った。靴紐をまたも結ぶのが面倒なので足元は靴下のまま、綾乃の後ろに回り込み、右肘の辺りを引っ張り、順番に脱がしてやる。靴下越しの人造大理石の感触がやけに冷たく感じられた。

「そしたらさ。このまま優香を寝かしたいから、寝室に布団、敷いてくれる?」と、優香の背中に手を回したまま靴を脱ぎつつ綾乃。丈一郎は腰に手を添えたまま目を丸くして振り返り、
< 166 / 259 >

この作品をシェア

pagetop