俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
「なにそれ」よーしよーし、だいじょうぶよー、と平静な母親の顔を作り、真っ赤な顔で泣き叫ぶ優香に話しかけている。

 無視されたのも、丈一郎は腹が立った。

 母親がそんな乱暴な態度を取るから、優香がそんなに泣くんじゃないのか。

 言いたいことはまだまだあるのだが、綾乃が自分の服に手をかけ、ためらいもなく片手でボタンを外し始める。となると。丈一郎はここにいていいものか、迷った。家で、自分の場所がなくなるとは。二人でローンを組んで苦労してお金を払っているマンションだというのに。

「ちょっと」やはり、綾乃が邪魔だといわんばかりの目で見てくる。「見ての通り、授乳すんだけど」

「……分かった」

 背を向け、丈一郎は寝室を出て行った。

 そして、風呂を洗う作業を再開する。……そもそも。長旅で疲れているだろう綾乃のために、こうして風呂を洗っているというのに。で尋常ならざる泣き声が聞こえたから泡まみれの手で慌てて駆けつけたというのに。なんだあの態度。

 実家に長く居すぎて、お嬢様扱いに慣れきってしまったんじゃないのか。
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