俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 だとしたら、直すのはおれの役割だ。いくら母親業が大変とはいえ、ひとに礼を言わない、物を大切にしない、ああいう態度は、どうかと思う。

 手を止め、丈一郎はため息を吐く。もう、何度目のため息だろう。帰宅して三十分と経っていない。会えるのがあんなに楽しみだったのに。帰ってきたのはとんでもない女王様だった。目の前が暗くなる。

「まー。なるようになるさ。元気出せよ、おれ」

 鏡のなかの自分ににっと笑いかける。寝室はどうやら静かだ。優香は落ち着いたのだろうか。

 ふと丈一郎は疑問に思う。

(赤ちゃんてどうやって、……風呂に入るんだ?)

 優香は、靴を履いていなかった。まだ、歩けないのだろう。となると、……いったいぜんたいどうやってからだを洗うのか? それとも、赤ちゃんはそんなにからだが汚れないから、毎日風呂に入れなくたっていいのか? いやでも、さっき綾乃が、赤ちゃんの肌がどうのと言っていたから、清潔に保たなきゃならないのだろう。

 よく分からない。分からないことは保留。きっと綾乃が知っているだろう。なんせ、実家に四ヶ月も帰り、育休をあと五ヶ月も取得するんだから。
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