俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 日頃使わない客間に丈一郎の布団が置いてある。あまりに頻繁に泣く我が子のせいで丈一郎を夜中に起こさぬよう、妻としての配慮だった。布団を適当に敷き、ひとまず横になる。静寂。――が、訪れてくれれば完璧、なのだったが。

 案の定、離れた寝室のほうからは赤子の泣き声が。「優ちゃん。けいちゃん……」

 だが。

 立ち上がれないほど疲弊した自分自身を感じるのも事実だった。消耗して摩耗して削られた靴底のように。自分が雑巾だったとしたら絞っても出るものが一滴も残っていない。元気が枯渇している。仮に、アントニオ猪木や蝶野正洋にビンタされたとしても即座に意識を失う自信がある。――けいちゃんならいってえ! と悶絶して観客を沸かすだろう、月亭方正のように。そんなけいちゃんが『任せて』と言っているのなら、頼るのも手。休めるのは――いましかないのだから。そうすると。

 久方ぶりに安堵が彼女の元を訪れる。任せられるひとがいるというのは、なんと頼もしいことなのだろう……。
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